メンバー便り

今どきの波佐見紀行

春、九州は陶器市の季節を迎える。なかでも有名な有田陶器市は今年で112回めだった。ゴールデンウィークの観光を兼ねた買い物客でにぎわうイメージがあるが、集まるのは一般客だけではないらしい。業務用も、この時期に一年分の交渉が行われることが多いのだそうだ。

ゴールデンウィーク後すぐ、有田のお隣、長崎の波佐見町に立ち寄る機会があった。波佐見焼で知られる焼き物の町だ。知名度抜群の有田に隠れた存在だが、江戸時代から一般向けの磁器を大量生産して、日本一の生産量をほこった。その最大のヒット商品が、かの有名な「くらわんか碗」だ。輸出用の酒瓶だった「コンプラ瓶」もよく知られている。鹿児島にもコンプラ瓶が伝世していて、磁器生産が本格化した幕末には薩摩でもこの瓶をつくって醤油や酒を輸出していたのだといわれてきたが、どうやら波佐見焼らしい。

概して、焼き物の里は山間の狭隘な土地にひっそりと存在する。中心地の中尾山も同じで、集落全体に窯元が密集している。ここで全国一の生産が行われたとは想像しがたかったが、高台に残る「上登窯」跡は全長160m以上、焼成室が33室もあって、当時、世界最大級とも、2位ともいわれている。鹿児島の最大が12室、全長46m程度だったのとは比較にならないし、往時は窯が25基はあったというから圧倒的なスケールだ。

長崎県波佐見町 上登窯跡から眺めた中尾山集落。

長崎県波佐見町 上登窯跡から眺めた中尾山集落。集落全体が焼き物をつくる

波佐見焼最大の「上登窯」跡。

波佐見焼最大の「上登窯」跡。全長160m、焼成室33室。レンガ壁は近年のもので、壁と壁の間が1室(12畳位?)

中尾山の景色は時代を錯誤してしまいそうな長閑さだったが、山を降りて観光客が多く立ち寄る店に入ると、モダンな商品が並んでいた。ちょっと力を抜いた感じの、いわゆる今風な雰囲気で若者も多かった。近年とくに人気の「HASAMI」シリーズが各所で目をひいた。ポップでかわいく、ブロックみたいに積み重ねられる。和食とか、気張った料理とかはイメージしにくいが売れているというのが時代の流れなのだろう。

波佐見焼は全国の中でもがんばっている産地だ。1961年にグッドデザイン賞に輝いた白山陶器の「しょうゆさし」は、今でも国内外で売れ続けている。鹿児島でも飲食店でよく見かける。焼き物におけるプロダクトデザインのはしりみたいな存在で、形もいいが、液垂れせず使い心地がとてもいい。今回も、時代を意識したデザインの器がたくさんあった。見た目はいいが素人づくりで機能がいま一つといったものとは、ひと味もふた味も違う。

西海陶器製造所跡をそのまま雑貨屋とカフェにした「HANAわくすい」

西海陶器製造所跡をそのまま雑貨屋とカフェにした「HANAわくすい」。若者が多かった

近年人気のマルヒロの「HASAMI」シリーズ

波佐見のショップで多くみかけた、近年人気のマルヒロの「HASAMI」シリーズ

店をまわりながら、水玉模様の急須セットや茶碗にはっとさせられた。県境を越えた佐賀の焼き物だが、一昔前までは、白地に紺の水玉のずんぐりした急須と湯のみといえば公民館とか大衆食堂の定番だった。ほとんどの人が見覚えがあると思う。それが、懐かしいのだがどこか新しい。かわいくも見える。帰ってからネットをみたら、2010年にグッドデザイン賞を受賞していた。なるほどと納得した。

(薩摩伝承館 深港恭子)