メンバー便り

杏雨書屋訪問記

3月末に、大阪の杏雨書屋(きょうう しょおく)に江戸時代の博物学の本を調査に行きました。杏雨書屋は、武田薬品工業株式会社からの寄付をもとに創設された武田科学振興財団によって運営されている私立の図書館です。大阪市内の中心部船場(せんば)の北に位置する道修町(どしょうまち)にあります。道修町は、薬種問屋の集中する地域で、現在では著名な医薬品会社の本社ビルが立ち並ぶ地域になっています。道修町には少彦名神社(すくなひこな じんじゃ)という小さな神社があり、医薬の神さま「神農(しんのう)さん」が祀られています。11月23日が祭礼の日で、道修町の大手医薬品会社の社長さん達が勢揃いしてお参りをします。大阪では「神農さん」のお祭りがあると年末に入ったなと言う気分になります。

少彦名神社(神農さん)

少彦名神社(神農さん)

杏雨書屋は、武田薬品を設立した五代目武田長兵衛の収集した日本及び中国の医学、薬学関係の書物を基礎としています。日本を代表する医学、薬学書の専門図書館です。「杏雨」は「杏花雨」の略で、薄紅色の杏(アンズ、カラモモ)の花の咲く清明節(4月7日前後)に降る雨を指します。杏は、三国呉の名医である董奉(とうほう)が、治療費を取らない代わりに、病気が治った者に杏の苗を植えて貰い、鬱蒼とした林になった(杏林)、という故事に基づき、名医を象徴しています。

拝見したのは、「中山花木図」4点(写真複製)で、その内の1点が薩摩の著名な画家である木村探元(きむらたんげん)の真筆になります。写本が多く、系統が複雑なので、主要な写本を一覧できる良い機会でした。また、島津重豪(しげひで)に仕えた博物学者曾槃(そうはん)のここにしか所蔵されていない著作や奄美の植物を多く収める「琉球産物志」の写本も拝見しました。

企業秘密の多い医薬品会社ならではの厳重なセキュリティ体制がとられています。まず、武田薬品の警備員受付でアポイントのあることを伝え、氏名、所属、入館時間を記入して、入館証を受領します。次に、別棟の杏雨書屋の1階で入館証を機械にかざしてエレベータを呼び二階へ、二階の杏雨書屋受付に入るため、再度入館証を機械にかざして入室、要件を伝え、今度は、杏雨書屋専用の入館証に交換して閲覧室に案内されます。閲覧室で、パソコンを使って閲覧希望図書を申し込み、しばらく待機していると本を係の方が持参してくれます。本の返却に当たっては、パソコンで係の方を呼び出します。帰るときも、同じ手順の繰り返しです。日本最大の図書館である国会図書館を初めて訪れた時には、機械によって全てが管理された工場を見学しているようでしたが、杏雨書屋も別の意味で今後の図書館の姿を現しているようです。

◎杏雨書屋 http://www.takeda-sci.or.jp/business/kyou.html

(法文学部 高津孝)