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奄美の地図③-戦前期奄美の旧版地形図-

前回のブログ(奄美の地図②―古い地形図の探し方―)に続き、今回も戦前期奄美の旧版地形図探しである。これまでに、5万分1地形図「名瀬」を素材として、測図年と発行年の間に33年の時間差があることを指摘し、「国土地理院の図歴に記載されない旧版地形図が存在する」との仮説のもと、鹿児島県内の二つの県立図書館にて旧版地形図の所蔵調査を実施した。その結果、地元に戦前期奄美の5万分1地形図は所蔵されていないことが分かり、「県に無いなら…」と国会図書館本館(東京都)で資料調査を行うことにした。国会図書館に無ければ、筆者の仮説の検証は非常に困難な状況に追い込まれる。

国会図書館と呼ばれる施設は、東京本館と平成14(2002)年に開館した関西館(京都府相楽郡精華町)の2館が一般的であるが、この他に国際子ども図書館などの支部図書館が26館あり、内訳は司法機関1(最高裁判所図書館)・行政機関25(環境省図書館・気象庁図書館など)である。旧版地形図を含む地図資料は、大半が東京本館に所蔵されており、同館4階にはその名も「地図室」という地図閲覧の専門室が設けられている。そこには、近代以降の一枚ものの地図(地形図・地質図・海図など)と全国の住宅地図が架蔵されていて、地図好きには夢のような部屋でもある。

鹿児島中央駅からバス・飛行機・鉄道を乗り継ぎ、4時間ほどで最寄りの永田町駅に到着する。そこから徒歩5分の場所に国会図書館があり、道の向かい側には国会議事堂が見える。国会図書館へ入り、最初に行うことが所蔵状況の確認である。ここが運命の分かれ道で、蔵書件数が0なら即座に調査終了となる。期待と不安を半々に、専用の端末機で「奄美 地形図」と入力すると、昭和20(1945)年以前に作成・発行された奄美の地形図として15葉が該当した。その測量年・発行年・縮尺は表1の通り。

表1.奄美大島の近代地形図一覧 

表1.奄美大島の近代地形図一覧 (国会図書館所蔵分)

国会図書館に所蔵される戦前期奄美の地形図は、国土地理院の図歴に記載されていない5万分1地形図8葉と2万5千分1地形図7葉(図歴記載あり)で、何れも図歴の測量年と一致している。8葉の図名(図名「赤木名」は、現在「名瀬東部」)を図1で確認すると、奄美大島全域をカバーしていることも分かり、筆者の勘が当たって安堵したのも束の間、次なる謎が思い浮かんだ。「何故、これらの地形図は国土地理院の図歴に載らなかったのか?」である。

図1.奄美大島における地形図の図名と収録範囲

図1.奄美大島における地形図の図名と収録範囲
※国土地理院 索引図「5万・2.5万分1地形図図歴:奄美大島」より

手掛かりが何か無いか地形図をじっくり観察してみると、通常の地形図との違いを発見することが出来た。それは、図右上部に押された「軍事極秘(戦地ニ在リテハ軍事秘密トス)」の判子と「奄美大島要塞近傍」の表記である。近代の地図は、図中に基地や軍港など軍事施設を含んでいる場合、軍事機密とされて一般的な地図とは取り扱いが異なっていた。様々な地図情報を気軽・手軽に入手できる現代とは、地図を取り巻く環境が大きく違っていた当時の状況が窺い知れる。

図2.「軍事極秘」の押印

図2.「軍事極秘」の押印
※右横書きの文字と 「鹿児島県大隅国大島郡」の地名表記が時代を感じさせる。

昭和20年の終戦時、国土地理院の前身組織である参謀本部陸地測量部は、「外邦図」(日本領以外の地図)と称される独自に作成した国外(北…アラスカ、南…オーストラリア、東…アメリカ本土の一部、西…パキスタン・アフガニスタンの一部)の地図と共に、軍関係の地図類を焼却処分した。図歴に記載されない戦前期奄美の5万分1地形図は、この時に処分されたものと推察され、後継組織の地理調査所や昭和35(1960)年に発足した国土地理院にはこれらの地形図が伝存せず、結果的に作成された事実があるにもかかわらず、国土地理院が実物を保有していないために、図歴に記載されなかったと考えられる。

(鹿児島大学法文学部 小林善仁)